【Darling! Darling!】






―――――ストレス。
人はストレスを抱え過ぎると、脳が身体のどこかしこに信号を送り出す。
時には痛みとして表したり、時には目に見えるような形で表したり、と…。

俺、――――香藤洋二のストレスの信号はどうやら下半身にあるようだ。


『…またかよ〜〜〜!!』
俺は自分の意志に反抗している“それ”に向かって悪態を付いていた。
『なんで、そこに来るのかな〜!? 一番来て欲しくないところじゃん!』
どんなに文句を言おうが、脅そうが、つついてみようが、振ってみようが、
“それ”は何の反応も示さない。

“それ”
俺の愚息。
また、勃たなくなっちゃった〜〜〜!!










◆◆◆◆◆


岩城さんが年明けから、大河ドラマの撮影が始まり、週の殆どを京都で過ごすことになった。
週末の2日ほど東京に帰って来るという、完璧、単身赴任状態。
社長という肩書きを背負っているから、どうしても、って帰ってきても日帰り。
俺も仕事が入ってるから、会えない方が多い。
それでも、会えないなら会いに行けばいいじゃん、と、時間が取れれば俺が京都に行っていた。

でも、春のドラマで準主役に起用されて、1クール、約三ヶ月間、東京に缶詰になった。
このドラマは数々の名作を書き上げた、鬼才、高畑 公さんによる3年ぶりの脚本として、
世間の注目を浴びている。
初めて、第一回目の台本を読んだとき、正直、鳥肌が立った。
ふとした動作が後々の伏線となって、まるでとても精密に出来たパズルを組み立ててるみたいで、
これでもか、という位まで掘り起こしてる心理描写。
演技者、個々の性格。それの背景にあるもの。

気を抜いてなんて出来ない。出来るわけがない!
この役をモノにした時、俺は役者としてまた一歩前進出来る!

週末、帰ってきた岩城さんが、この台本を読んで、
『本当にいい台本(ほん)だな、演れるものなら俺もやってみたいな』
って、言ってくれた。そして、がんばれよ、ってすごく優しく抱きしめてくれた。
その時、この役を演じるさまをリアルに岩城さんに見せられなくて淋しい、と感じた。




撮影が始まった最初の1ヶ月は夜もまともに寝れなかった。

あの時のセリフ回しはこうした方が良かったかも、とか、

目線が…、とか、その時は夢中だけど、夜一人になって眠るときはもう頭の中が

ぐるぐるになって、寝返りを打つばかり。

隣の空っぽのベットを見るたびに、淋しくて泣きそうになった。

もし、今、岩城さんが手の届く所にいてくれたら…。

あの甘い身体を思う存分味わって、縋り付いてくれる腕に自分の存在を確信して、

眠ることが出来る。

そっと、自身に手を伸ばして慰めようとしたけど、なんかそれじゃあ、自分は岩城さんに

逃げてるみたいで、情けなくなって、伸ばした手を慌てて引っ込めた。





5月に入ってすぐに、岩城さんが

「来月のお前の誕生日、休みを取るから、お前も取れないかな?」

って聞いてきた。

岩城さんが自分の都合で俺の仕事に対して何かを言うって滅多にないから、

ううん、初めてかもしんない。本当に驚いた。

吃驚して固まってる俺の顔を見て、岩城さんが照れくさいような、伺うような顔をして

だめか?って首を傾げた。

俺は慌てて両手をぶんぶん振り回し、

「ううん!たぶん大丈夫!そのあたりだったらドラマの撮影も終わってるし!でも、でも!どうして!?」

舞い上がって、脂下がった顔で岩城さんの顔を覗き込むと、岩城さんは耳まで真っ赤にして、

「う…、俺もお前もずっと忙しくて、ここの所ゆっくり二人で過ごせてないだろ?

 だから、誕生祝いも兼ねて、どこか温泉にでも出掛けようかと…」

確かに、岩城さんが家で過ごしたのは、この数ヶ月両手にも満たない。

ましてや、俺と夜を共にしたのなんか片手にも満たない。



俺の腕の中で恥ずかしそうに顔を背ける岩城さんの耳元で

「それって、岩城さんが誕生日プレゼントかな?」

「・・・・・」

「岩城さんも俺といれなくて淋しいよね…?」

とびっきりの甘やかな声色で囁けば、余計に顔を俺の肩に擦りつけて隠してしまう。

本当に可愛くて、愛しくて、

今から出掛けるんだぞ、って岩城さんの静止も聞かず、俺は本能のまま岩城さんを味わいつくした。





俺の休みを確認して、後の手配は全部俺がするから、と岩城さんが言ってくれたので全部まかせた。

俺の誕生日を挟んで5日間。

岩城さんは休みを取る。その代わり5月中は殆ど東京には帰れない。

俺も撮影が最終回に向けて佳境に入るから、休みは殆どない。

正直言ったら、会えなくてかなり淋しいけど、そうすればそうするほど、後の楽しみが大きい。

出来るだけポジティブに考えるようにして俺達は1ヶ月を過ごした。





ドラマの撮影は表面上、上手くはいっていた。視聴率も今クールのドラマの中ではダントツだった。

でも、当たり前だけど俺一人の力じゃない。人目を引きつけなくて止まない、とびっきりの感性をもつ主役。

その一つ、一つの演技が本当に勉強になるベテランの脇役。

それに俺の演技はついて行けているのか?って何時も不安になる。



実は撮影が始まって俺は自分の慰めるのを止めていた。

“慰める”って行為に何だか“逃げ”を感じたから。

その分、岩城さんが帰ってきたときは思う存分、自分を岩城さんに注ぎ込んだ。

我慢すればするほど、変な達成感が得られた。

その時の俺は、我慢することをドラマの成功の願掛けみたいにしていたんだ。







異変に気が付いたのは、かなり遅くに岩城さんに電話をしてる最中。

うとうとしているのか、電話に出た岩城さんの声は舌っ足らずで、まるで夜の睦声に似ていた。

いつもなら、そんな岩城さんの声を聞いた俺の下半身は反応を絶対するはずなのに、なぜか何にもない。

顔が熱くなり、血の巡りが集中するピリピリした感じがなくて、下腹のあたりで自然消滅する感じ。

…俺はこの感じは知っている…。

とたん、背筋にぞわって鳥肌が立った。

出来るだけ表面上は穏やかに、もう遅いからおやすみ。と岩城さんに告げ電話を切った。



深呼吸してパジャマとパンツを下げて、ナニを掴んだ。

頭の中を岩城さんで一杯にして、かるくさすってみた。やっぱり反応がない!

「…マジ?」

途方に暮れて、やわからいそれを掴む俺をよそに、その日、5月が終わった。







◆◆◆◆◆



6月3日。

ドラマがクランクアップした。

スタッフの暖かい拍手と両手一杯の花束を抱えて、俺は心の中で仄かな期待を胸にスタジオを後にした。

全てが全て、満足してる。とは言えないけど、今の俺の実力は出し尽くした。後悔はない。

このドラマでの経験は必ず後々に生きてくる。充実感で一杯だった。



―――そして、ドラマの撮影、と言う、たぶん俺のナニが反応を示さなくなった、

っていうストレスはなくなった。すぐにでも復活だ!



後は岩城さんとの温泉パラダイス!

廊下をスキップしそうになって、慌てて歩調をゆるめた。





6月5日。

「もしもし、小野塚?」

『あー、何?香藤か? また晩飯付き合えってか? いいかげん飽きたんだけど』

「なんだよ!それ! いや、メシも付き合ってほしいというか、話があるんだけど、今晩ヒマ?」

『ヒマじゃねーし、一応ゲイノウジンだから』

「じゃ、今晩開けとけ!」

『・・・聞いてねーし』



俺は待ち合わせの時間を過ぎても来ない小野塚を、一人イライラしながら、ワインバーの個室で待っていた。

「お待ちー」

「遅せーよ!」

のらりくらりと、遅刻したのを悪びれもせず、小野塚がやって来た。

だから、時間には間にあわねーって言ってたじゃん、ってブツブツ言っているが、それは無視した。



俺は、コホン、と咳払いをして、何を注文しようかなーってメニューを見ている小野塚に切り出した。

「あのな、今から俺が言うことは、トップシークレットだからな、絶対誰にも言うなよ!」

あんまり、俺が真剣な顔をしてたみたいで、小野塚が手元からメニューを下げた。

「…どうしたんだ? それって岩城さんにも内緒なのか?」

「そうだ、他の誰よりも岩城さんには秘密にしてほしい」

小野塚が身を乗り出して

話してみろ、と低く呟いた。



ごくり、とつばを飲み込んで、俺は今、俺の身体に起こっている緊急事態を小野塚に、とつとつと語り始めた。





5分後。

小野塚がプルプルと震えだした。

「ぎゃはははは〜〜〜〜〜!!!! お前、バカだと思ってたけど、本当にバカだろ!?」

「何だよ!それ!? 人が真剣に悩んでるのに!!」

やっぱり、お前はハズさね〜っ!って笑い転げる小野塚を見て本当にムカついた。

やっぱりこいつに話すんじゃなかった!



唸り声を出して威嚇する俺を見て、やっと小野塚が笑いを止めた。

「悪い、悪い、そうだな、お前にとって重大な問題だ。真剣に聞くぞ」

肩をバンバンと叩かれて、本気でぶん殴りたくなった。



身の危険を察知したのか、小野塚が、まあ、とりあえず病院に行け、と言ってきた。

「それが出来たらお前には言わない」

「じゃ、自然に治るのを待てば?」

「だから、あと4日で岩城さんと旅行に行くんだよ!出来ればそれまでに治したい」

「岩城さんに正直に話せば?何もナニが出来ないからって旅行、行けない訳じゃないし」

「だから、それが出来たらお前に相談しないって」

「・・・・・つまりだ、ヨージ君は岩城さんに内緒でそのナニを治したい。期限付きで。って事だな?」

「そうだ、仕事のストレスだったんなら、仕事は一段落付いたんだから治るはずだろ?

 でも、相変わらず反応ナシだ。じゃ、どうすればいいのか?って考えて、とりあえず

 誰かに話してみたら、気が落ち着くんじゃないかと…」

「うーん、一理あるな」



で、話してみてどうだ?と、小野塚が俺の下半身を指さした。

頭の中を岩城さんで一杯にして、下半身に気持ちが集中するようにしたけど、何もない。

ふるふると首を振る俺に、小野塚は、やっぱり岩城さんに話した方がよくね?と言ってきた。



俺はため息と同時に、前にも仕事のストレスでなった事がある、と伝え、その時、岩城さんに

結構な啖呵を切った事、結局は岩城さんに治してもらって、今回も、って事にはかなりの抵抗が

ある、と言った。



「まー、仕事のストレスが溜まる度に、旦那が不能になる、ってのもなぁ〜、

かなり情けないとゆーか、おまけに長い間の禁欲生活。

期待が大きいだけに、知った時の奥さんの反応は…、正直、顔も見られない、つーか…」



小野塚の容赦ない言葉が頭の上にぐさぐさと突き刺さった。

どんよりとする俺に、小野塚が、なるべく早くなんか良い方法探して見るよ、って言ってくれた。



ああ、思いっきり腹の黒い性格の曲がっている王子って思っていたけど、実は良い奴か?と俺は一途の

頼みを小野塚に託した。





その夜、岩城さんから電話が入った。

旅行の手配が殆ど済んだ、っていう事だった。

本当に楽しみにしている、ずっと会えなくて淋しい、と、素直に口に出してくれる岩城さんに、

俺の口は、ありえない状況に陥っている下半身を無視して、ずっと寝かせないからね、とか、

タラシ口調全開で暴走をしていた。(俺のばかーーーーー!)





 ◆◆◆◆◆



―――そしてとうとうやってきた俺の誕生日。

―――ここ何年間、こんなにどんよりとした気持ちで誕生日を迎えた事はない。

今日の夕方には岩城さんが帰ってくる。

あいかわらず、状況は変わらず、だった。

もう、腹を括って話すしかない、何度もため息をつきながら決心をつけるしかなかった。





ピンポーン。

チャイムが鳴った。俺はのろのろとインターフォンに出た。

よっ、っと小野塚の声が聞こえた。そして、あり得ない事に一緒に、おはよーん、って、

宮坂の声がした。…最悪だ。



「安心しろ、香藤!俺が来たからには大丈夫だぞ!笑わせて貰った分は、大いに協力しようじゃないか!」

固まってしまった俺の肩を掴んで、宮坂がものすんごく嬉しそうに話している。

俺はすぐにでも灰になって、どこかへ飛んでいってしまいたかった。





こいつを一瞬たりとも“良い奴”と思った俺が馬鹿だった。

小野塚に話してから、毎日こいつはメールなりで連絡をくれた。

ある時には“よく効くツボ”とかあるからやってみろ、とまで、本当にこいつにしては親身

になってくれていた。と思っていた。

だがしかし!、最後の最後で寄りによって宮坂に俺の事を話やがった!

ありえない!この事を岩城さんに知られるより、ある意味、宮坂にだけは知られたくなかったのに!



不機嫌さを隠そうともしない俺に、小野塚が、最終兵器を使ってみた。と語り出した。

もう時間がない、ってゆーより、タイムアップ寸前なんだから、やれる事は全部やってみよう。

って事らしい。

一つが、岩城さん並に知られたくない宮坂へのカミングアウト。

そして、もう一つが…と、何やら鞄をゴソゴソしだした。

何、何?と覗き込む俺の目の前に、じゃーん、と怪しげな瓶を差し出した。



「…何、それ?」

「これはな、香藤、ありとあらゆる漢方薬やら滋養強壮薬やら、精力剤を練り込んで作った

 軟膏だ。これを塗ればどんなナニでも一発で勃つ!!・・・・・らしい!」

「なんなんだ!? その間は!!」



絶対にそんなの塗らないぞ!って、そっぽを向く俺に、二人は、男だろ!やるだけやってみろ!

と、詰め寄ってきた。

しつこいぞ!ってブチ切れ寸前で怒鳴ったら、二人は目配せをして、いきなり宮坂が俺を後ろから

羽交い締めにしてきた。

そのまま、ソファーに宮坂が俺ごと背中から倒れ、仰向けの状態で動けなくなった。

小野塚があんまり暴れんなよ、って言いながら、俺のジーンズのボタンに手を掛けた。

「やめろ!見るな!さーわーるーなぁぁっっっ!」

くそ!宮坂の馬鹿力め! 腕が抜けない!

大丈夫だ、お前のはもう何回も見てるし、しかも直接は触らないから、と、小野塚がどこから出したのか、

刷毛を出してきて、これで塗るから安心しろ、これで一応お前の貞操は守られるぞ。なんて言ってる。

何、訳のわからん理屈を言ってるんだ!

必死で脚をばたつかせて、抵抗して、大の男三人で、どっすん、ばったん、と暴れていたら、

リビングのドアが静かにカチャリと開いた。





「…何をしてるんだ?」





「「「あ…!」」」





1ヶ月ぶりの岩城さん、半日早いご帰宅。



とりあえず、





「「「おかえりなさ〜い」」」









岩城さんは冷静だった。こわい位冷静だった。

1ヶ月ぶりに帰った我が家で、野郎三人がもみ合っていて、しかも、俺は半ケツ状態。

そんな逆に俺だったら、大暴れ確実な状況でも、冷静に三人の中で誰が一番、即決にこの状況を

説明できるかを見極め、小野塚の前に立ち、説明してくれる?とにっこりと微笑んだ。







「・・・・で?」

「…ごめんなさい」



ソファーに座る岩城さんの顔がまともに見れない。

床に正座して、ただ、ただ、俯くばかりだった。





小野塚の説明を受けた岩城さんは、変な事に巻き込んでごめんね、と俺の代わりに二人に詫びを入れ、

後は俺がどうにかするから、と、さっさと二人を帰してしまった。

しかも、確実に玄関まで見送っていた。

その間、おろおろと立ちつくす俺に、床を指さして“正座”と一言、言って。

それって、犬の“おすわり”じゃん。



「俺は謝れ、とは言ってないぞ」

「でも、ごめんなさい…」

岩城さんが深いため息をしてる。

少し間を置いて、すごく優しい声で、香藤、って呼んだ。



おずおずと顔を上げて、岩城さんの顔を見れば、優しい顔で微笑んでいた。

ほら、とソファーの自分の隣をポンポンって叩いて、隣に座れって俺を促した。

「そんな、情けない顔するな」

「でも、呆れたでしょ?」

「そんなの、慣れてる」

「う…」

はは、って笑って岩城さんは、頭をクシャって撫でてくれた。



それから、すこし真面目な顔をして、

「だけどな、香藤、一人で抱え込むな、って言ってるだろう?

 確かに男として、ストレスがそんな形で出てしまうのは恥ずかしいかも知れない。

 それは、俺も男だから解るよ。」



「お前がそれになったら、何度でも治してやるさ。

痩せ我慢するな、お前がすれば、俺も我慢しなくちゃいけないだろ?」

茶目っ気のある瞳で、俺の顔を覗き込んだ。







―――なんで、この人はこんなに広いんだろう。果てしなく、とんでもなく、俺を包んでくれる。

全身でいつも、いつも、俺を受け止めてくれる。

泣きそうだ。 

あんまりにも、この人の愛は深くって、暖かくって、甘くて。

俺は鼻を啜りながら、

「本当にごめんね。これからは岩城さん頼るよ」

頬を赤らめて、新たに気持ちを固めて、決心を伝えた。







「で、だな」

「?」

いきなり、岩城さんに胸を押された。

力の抜けきっていた俺は、なされるがままにソファーに仰向けに倒れた。

瞬間、岩城さんが俺の太股に跨り、妖艶な笑みを浮かべた。

「それとは別に、お前が他の男に組み敷かれてるのを見て気分が良い、訳ないよな?」

「はひ?」

だって、あれは組み敷かれてた、なんてもんじゃなく、押さえ込まれてた、でしょ!?



するり、と脇腹を撫でられて、そのままシャツの裾から、怪しく手が入ってきた。

へそあたりから腹筋を撫でるように、指でシャツを胸までたくし上げられた。

倒されたままの体勢から、岩城さんの眼差しに射られて、指一本も動かせない。

乾いてきて、はりつきそうな舌を、どうにか動かして、

「い・岩城さん?、何するつもり?」

なんて、間の抜けた質問をした。



に、っと岩城さんは口角を上げて、

「もちろん、お仕置きだ」

感じ始めた胸の飾りを、きゅっと摘まれた。



「ひっ!」

一気に背筋に痺れが走った。

片手ですんなりと岩城さんが、俺のジーンズのボタンを外し、ゆっくりとファスナーを降ろした。

反応を示さない俺自身を、ボクサーの上から、つつっと指でなぞり、

岩城さんが、ふ…ん、って呟いた。そして、

「気に入らないな」

って、自身を指先で弾かれた。



ぴりっとした痛みに、思わず腰が浮く。

何か、岩城さん、降臨しちゃってる!? 目が!目がものすごく怪しく光ってるぅ?!

こうなったら、もう降参。

ヤキモチ焼いてばっかりの俺がいるから、あんまり目立たないけど、実は岩城さんもヤキモチ焼き。

結構、沸点は低いんだよね。それは俺には嬉しいんだけど。

好きにしちゃって下さい。 たぶん、すぐにナニは治るから。

だって、岩城さんが触ってくれるんだもん。治らないわけがない。

もしもダメだったら、岩城さんが俺を食べればいい。遠慮なく食べちゃってね。



 ◆◆◆◆◆



「おっと、香藤、言っておかなくちゃな」

俺のジーンズを下げてる岩城さんが、何か気づいたように手を止めて、

ずいっと顔を近づけてきた。

そして、おでこ、鼻先にちゅっとキスをしてくれて、唇に触れるとき



「Happy Birthday 香藤」



とびきりの甘い声で、とびきりの甘いキス。

やっぱり、岩城さんと一緒に迎えられる誕生日は最高!











――――この後の事は二人だけの秘密。





おしまい。

 

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