いつでも僕たちはをする。
 
 
 
 
会社の自室で、パソコンのマウスを操作しながら、ふとデスクに置いてある時計を見た。
12時少し前。
 
“そろそろかな…”
 
3時間程前にベッドの上で正座して青くなっていた香藤を思い出し自然に顔が緩んでしまう。
あれから昨夜のことを小野塚君あたりから聞いて、あたふたとしたのだろうか…。
 
確かに昨夜は飲みすぎて迎えに行った車の中では熟睡してたが、家の車庫から自分のベッドへは歩いて行ったんだがな…。
まあ玄関にぶつかったり階段から落ちそうになったり、寝室のドアが開かない、とめそめそしてたり。
 
 
くす…。
一人自室での思い出し笑いは、はたから見て不気味だか思わず笑わずにはいられない。
そんな所を見られているように内線が鳴った。
 
『香藤さんがいらっしゃいました』
 
会社の入口に一番近い席の社員からだった。
 
通してください、と返して緩む顔をわざと引き締めた。
 
 
コンコン。
遠慮がちにノックされる音。少し背を丸めて様子を伺ってるらしい。ブラインドの影で丸見えだが。
「どうぞ」
「……岩城さ〜〜〜ん…」
おでこと目だけをドアから覗かせている。
おい、香藤、それじゃあまるでやってることがどごぞの五歳児だ。三十路半ばも過ぎている大人とは思えんぞ。
お前の背後はオフィスだ。清水さんがいるんだぞ。また何かしでかしたな!って清水さんから殺人光線が出るぞ。
「……早く入れ」
 
モジモジしながら香藤が部屋に入ってきた。
 
よっぽど俺が怒っているか、呆れている、と思っているらしい。
小野塚君(たぶん奴)は一体どんな説明をしたんだか…と思わずこめかみを押さえた。
 
実際、昨夜のことはそんなに腹を立てていない。
まあ、正体がわからなくなるまで飲むのは良くないとしても、香藤もちゃんと面子を見てハメをはずしたんだし、
帰りは迎えに行く、と俺も言ってあったし。
噛まれた尻は……まあ痛いが…。朝、鏡で見たらしっかりと歯形がついていたが。
そんなの、俺が香藤にしたげんこつの数々を考えれば何て事はない。それよりも尻ならもっと痛かった時もあるし。こほん。
「えっと……岩城さん」
「なんだ?」
「おしり、痛い?」
「痛い」
香藤の顔からざっと血がひいたのがわかった。
あ、やばい。こんな風に直接的に言ってしまうと次にこいつがとる行動が…。
 
 
「おしり、見せて!」
 
 
やっぱりぃぃぃ〜〜〜〜〜!!いきおいをつけて、机にだんっ、と手をついて顔を近づけてきた。目が真剣だ。
ここがオフィスだってことが、まるっと抜けたらしい。
 
 
はあ、とため息をついて、尻は見せん、と静かに言った。香藤がわなわなと、なんで!?と普通に考えれば、
とんでもなくとんちんかんな事を問いただす。
当たり前だ。ここはオフィスだ。会社だ。なんで仕事中の俺が(しかも社長)尻を出さなくちゃいけないんだ?
…と、諭したいのに…、
「よりにもよって、いくら酔っ払ってわかんなくなっちゃったとしても、俺が!俺が岩城さんを噛むなんて!!
許されるはずないよ!ああ!なんで俺、あんなに飲んじゃったんだろう!? 最初は普通に飲んでたのに!
そうだ!途中で泡盛が出てきたんだよ!やばいって思ったけどあんまり皆が薦めるから!!〜〜〜〜」
 
 
―――――  香藤劇場が始まった。
良く回る口で、次から次へとセリフを言いだした。(セリフじゃないが)
 
市村○親がびっくりするような身振り手振りで、あの時はあーだ、こーだと一人芝居がはじまった。や、芝居じゃないが。
きっと、いたたまれないんだろうなぁ…。もういい年だし、酒の席でのことだし、笑って済ませればいいのに。
小野塚君も香藤がどうすればこうなるのか、ってわかりきって説明したんだろうな。
あいかわらずムカつくくらいにツボをついてくるんだよなぁ…。
あれから、あの酔っ払いどもの世話がよほど大変だったんだろうな。
で、香藤で憂さ晴らしか?
そうだとしたら腹が立つな。
 
 
 
 
――――――さん?」
「…………」
「岩城さんってば!」
「あ!?」
 
考えるのに没頭していたら、いつのまにやら香藤に呼ばれていた。
むう、と口を尖らせた香藤が、
 
「聞いてた?」
「聞いてない」
 
思いっきり香藤がしょっぱい顔をした。
さすがにそれは可哀想だったので、足で軽く床を蹴りイスのキャスターを滑らせ座ったまま机の脇に出た。
右手だけ少し上げて、
 
「おいで」
―――――――っ!」
 
香藤がおずおずと寄ってくる。ぽんぽんと手の甲を叩いて、怒ってないから、と言う。
 
「本当に?」
「ああ」
「別れる、とかない?」
「あるわけないだろ」
 
ほう、と香藤が詰めていた息を吐いた。
 
「そんなになるなら酒もほどほどにな」
「はい…」
「せっかく楽しんだのに、後がこうだと損だろ?」
「…うん」
 
香藤が小さな声で、ごめんなさい、と呟いた。
 
重ねていた手の甲からするりと腕を掴んで、ぐいっと引っ張ると身体を折って香藤の顔が近付いたので、唇をぺろりと舐め上げた。
ぴくり、と香藤の身体が揺れるのが腕から伝わる。見上げると耳まで真っ赤だ。
幾つになっても可愛いというか、馬鹿というか、別れるとかそんなわけないと解り切ってるのに、
いまだに俺に対して落ち込んだり、怒ったり、喜んだりして、それが二人でいる年月を重ねても変わらない。
 
恋。
 
を、しているんだろう。
 
 
もちろん自分もしているが、香藤の恋情よりは情が深くなっているかもしれない。肉親のそれに近くなっているかも。
よく言う、少年のままの心、そんなことかもしれない。
きっと、もっと年をとっても香藤は変わらないんだろうな。
 
そんな思いを巡らせて香藤の目を覗きこんでると、耳まで真っ赤だった香藤の目つきが変わった。
瞬きで少し瞳孔が開いて、口の端が上がる。
にたぁ、と言う擬音が聞こえてくるように悪い笑顔になる。
あ、調子に乗らせた、と思うより早く香藤に唇を食らいつかれた。
逃げ出さないようにと後頭部をしっかりと押さえこんで首の角度を変えて舌をすべり込ませてきた。
 
 
 
 
確かに甘やかしたのは俺だし、仕掛けたのも俺だが、やっぱりここは会社なわけで、こんなキスをする場所じゃない。
そう思うと目の前で薄眼を開けて、ややどや顔しているのを見ると腹が立ってきた。
なので、他人(ひと)の口の中を好き勝手に動く舌を……。
 
 
 
 
かぷっ。
 
 
 
 
―――――――――――――っっ!!!!」
香藤が両手で口を押さえながら離れた。
「ッっっふがっ いわきしゃん!?」
 
 
にっこりとほほ笑んで
「怒ってないが、昨日の仕返し。ランチ奢れよ?」
 
 
口を押さえながら香藤がにっがい顔をして、生春巻きなら奢ってあげる、と言ったので声を出して笑った。
 
 
 
 
 
 
 
 
うちの香藤君の扱いはこんなです…(-_-;)
 
 
 
 
 
 
 
 

 

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