味しい二人】
 
 
 
 

 


『手料理でイケメンのハートを掴んでみせよう!目指せ!モテ料理王者!
 手料理を食べて、王者を決めてくれるのは、イケメン中のイケメン!
 岩城京介さ~~~ん!!』

バラエティーの特番で、番宣もかねてで出演することになった。
よくはわからないが、出演する女性達の手料理を食べて、
一番美味しかったモノを選ぶ、というものだった。

ずらり、と並んだ料理。
正直言って見ただけで、腹がいっぱいになった。
とりあえず、各料理を一口だけ食べて感想を言えばいいのか?

「さあ!岩城さん!どれからいきましょうか?!」
進行役の若手芸人が、笑いをとりつつ料理を進めてきた。
「どれにしましょうか?どれも美味しそうですね」
とりあえず、無難に返事をして、一番ハズレのなさそうな金目鯛の煮付けに箸を伸ばした。
っしょっぱ! しかも生臭い!』
俺のリアクション待ちの進行役が、顔を覗き込む。
「あ~れ~?岩城さん、やっぱり美味しくないですか?
 正直に言ってくださいね!」
「え~~~~?!そんなぁ!!」
煮付けを作った女性タレントが、大袈裟に反応している。
「いや、ちょっとしょっぱいけど、美味しいですよ?」
水で無理矢理、口の中に残っているものを流し込んで答えた。
「岩城さん!水で流し込んでますよ? 正直に言っていいんですよぅ~~?」
にやにやしながら、ツッコミをいれてくるが、それ以上突っ込まれたら、まずい!と本気で言って
しまいそうだった。
「そんなことないです!」
と、むりやり微笑んで、次の料理へと箸を進めた。

今度は、とんかつ。
思いっきり油っぽい しかも改心の作!と、のたまってるソースは思いっきりまずい!』
「ちょっと、油っぽいけど食べれます」
もはや、美味しいとは言えない。
口直しに、と、混ぜご飯を食べてみた。
普通に白いご飯が食べたかった。

ロールキャベツ。
ペペロンチーノ。
ハンバーグ。
豚汁。
春巻き。餃子。etc……

作った奴らに、試食はしたのか!!と叫びそうになった。

やっとの思いで、すべての料理を食べて、なんとか感想を言えた。
自分が俳優で良かった。と、しみじみと思った。
しかし、料理のあまりのまずさに胸焼けをおこして、気持ち悪くなってきた。


「さあ!岩城さん!この中で一番、美味しいと思った料理を教えてください!」
女性達の、私のを選んで~!という声を聞きながら、俺は、
『香藤の作った、お茶漬けが食べたいな
と、ぼう、と考えてしまっていた。


「さあ!岩城さん!どれですか~~~!?」
一番盛り上がりを見せた、その時、
……お茶漬け。」
ぼそり、と呟いてしまった。


「「「………へっ?」」」
スタジオが一瞬にして、し~~んとした。
すぐに我に返った俺は、
「いや!違います!このハンバーグです!」
と、ハンバーグに指をさしたつもりが、ロールキャベツに指が向いていた。

どっ、と、一気に爆笑の渦だった。
「岩城さん!うそはいけませんよ!
 な~に、適当に選んじゃってるんですか~~? 本当は全部、美味しくなかったんでしょう!?
 も~っ!正直に言ってくださいよぅ!!」
すべて当たってるツッコミに、頭が回らない。
本当に俺はこんな時のアドリブが、全然出てこない。
「い、いやっ!そんな事はないですよ! 全部、何とか食べれましたし!」
「だ~か~らぁ、何とか食べられたもの、ばっかりだったんですよね!? ここにある料理は!!」


『お前らの作る料理は、そんなもんなんだよぅ!まずい料理を岩城さんに食べさせやがって!!
お前ら!後で香藤さんに怒られるぞ!?』
『何言ってるのよう! 岩城さんは、まずい、とは言ってないじゃない!!
だいいち、なんでそこに香藤洋二が出てくんのよっ!?』
お互いの突っ込みの掛け合いで、場がわーっわーっ、きゃーきゃーと盛り上がった。

これは、内容的にはOKなのか? なんで香藤がそこに出てくるのかはわからんが。
ムカムカする胸を見えないようにさすりながら、後は番宣するだけで終わりだ、と、考えていた最中、

「本当に最後に岩城さん! 正直に言ってください! この料理、全部まずかったですかぁ?!」
いきなり、司会が俺に振ってきた。

たぶん、その瞬間、俺は俳優・岩城京介ではなくなっていた。
気持ち悪くて。
限りなくの岩城京介になってしまっていた。

うん。」
素直に頷いてしまった。


結局はそのまま撮り直しもせず、『モテ料理王者』は該当者なし。という結末で終わった。
ディレクターに言わせると、王者を決めるより、俺が明らかに我慢して食べてる。という映像の方が
面白かったから、だそうだ。
それは、いち俳優としては、かなり落ち込むところだった。






こぽ、こぽ、こぽ。。。。。。
香藤がお茶漬けを作ってくれてる。
いきなり、夜も更けているのにお茶漬けが食べたい…”とつぶやいた俺に、
ちょっと、まっててね、と、微笑んでキッチンへと歩いていった。

「はい、お待たせ」
ことん、と、小ぶりのどんぶりをテーブルに置いた。
俺の好きな、キュウリの古漬けとみょうがとしょうがを細かく刻んだものに、
だし醤油とほんの少しのごま油で和えて、わさびと白ごまをのせて、
熱々の玄米茶をかけたもの。
以前、店で食べたとき、俺が美味しい、と言ったら、店の主人にレシピを聞いてきた。

器をとり、ごはんを崩しながら一口啜る。
おいし。」
「そ?良かった」
香藤が向かい合わせに座り、頬杖をつきながら、にこり、と微笑んだ。




―――
数日して、放映された番組を見て、なんでいきなり、岩城がお茶漬けを食べたい。
と言ったのかが解って香藤が大笑いして、岩城が猛烈に拗ねたとか。
香藤に、岩城がうまい、と言う料理を教えて貰おう!と、にわかに女性達が企んでるとか。
また、それは今度のお話。

 
 

 

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